1. はじめに
不動産や非上場株式を保有する資産家や経営者にとって、相続税評価額の算定は極めて重要な問題です。相続税の負担は財産の種類や評価方法によって大きく変わるため、適正な評価を行うことが資産管理の鍵となります。
特に近年は、相続税の課税方法をめぐる訴訟が増加しており、財産評価基本通達の「総則6項」の適用を巡る判例が注目されています。総則6項は、特定の財産の評価方法が「著しく不適当」と認められる場合に、別の方法で評価を行うことを認める規定です。
【総則6項とは?】
相続税の財産評価は、財産評価基本通達というルールに従って行います。通常は定められた評価方法(例:路線価方式や倍率方式、類似業種比準価額方式など)を使って評価しますが、特定の状況下ではこれらの方法が現実の価格と大きく乖離することがあります。そうした場合に、通達通りの評価が「著しく不適当」であると認められれば、総則6項に基づき、より実態に即した方法で評価することが可能になります。
たとえば、類似業種比準価額方式で大幅に割高な株価が算出されるような場合、実際の取引事例や第三者の鑑定評価をもとに、別の方法で評価することが認められる可能性があります。
ただし、総則6項の適用は国税当局の裁量に依存するため、評価が恣意的に操作されるリスクがあるとして、納税者との間で争いになることが多いのです。
本記事では、最新の判例をもとに相続税評価額の適正な算定方法やリスク回避のポイントについて解説します。
2. 令和6年8月28日の東京高等裁判所判決
総則6項がよく問題とされるケース(わかりやすく解説)
財産評価基本通達の「総則6項」は、本来、例外的な手段として設けられているにもかかわらず、国税当局の判断で比較的容易に適用されるケースが見受けられ、納税者側から「不透明で恣意的だ」と指摘されることがあります。以下は、実務上でしばしば問題となる代表的な3つのケースです:
ケース | どんな場面? | なぜ問題になるの? |
---|---|---|
1. 株の評価が高すぎるケース | 非上場の会社の株を評価する際、同じような業種の会社と比べた数字を使って計算しますが、たまたま業績が一時的に良かっただけで、本来の価値よりも株の評価額が高くなってしまうことがあります。 | 実際の株の価値よりも高く評価されることで、必要以上の相続税を払うことになり、相続人が大変な思いをします。 |
2. 赤字の会社なのに高く評価されたケース | 売上が落ち込んでいて赤字の会社でも、保有している土地や建物などの「帳簿上の資産価値」で高く評価されることがあります。 | 実際は価値が下がっているのに、評価だけ高くなり、納税額が多くなってしまいます。 |
3. 貸している不動産が“空き地”として評価されたケース | アパートなど人に貸している土地や建物も、本来なら「収益性」を考慮して評価すべきところを、誰も使っていない空き地のように評価されてしまうことがあります。 | 実際の使われ方に比べて評価が高くなり、相続税が不公平になる可能性があります。 |
これらのケースでは、「形式的な評価」よりも「実態に即した合理的な評価」が求められることが多く、納税者が税務署の主張に異議を唱え、訴訟に発展する背景となっています。 (省略せず既存内容のまま)
3. 相続税評価額をめぐるトラブルの増加
相続税の評価に関するトラブルは、資産家にとって非常に現実的な問題です。税務署と納税者側で評価の考え方にズレがあると、税務調査の対象になったり、後から多額の税金を請求されたりする可能性があります。また、親族間での財産の分け方にも影響を及ぼします。
トラブルの種類 | 内容 | 主な対策 |
評価額の算定ミス | 不動産や非上場株式の評価が誤っており、過大な税負担が発生する | 評価方法の確認、専門家への依頼、相場や類似事例の調査 |
税務調査のリスク | 税務署による再評価で追徴課税を受けるケース | 資料保存、相続時の状況を記録、正当性を示す説明文書の準備 |
親族間の対立 | 評価額の理解に差があり、遺産分割で揉める | 家族間で事前共有、第三者(弁護士・税理士)を交えた公平な調整 |
【ケース例:評価額の算定ミス】
- 自宅を更地として評価し、実際より高額な評価になってしまった例
- 賃貸中であれば借家権などを考慮し、評価額を抑えるべきだった
【ケース例:親族間の対立】
- 地方の山林の評価をめぐり、兄は「ほぼ無価値」、妹は「資産になる」と主張
- 遺産分割が進まず、調停へ発展
これらは早期に資産内容を把握し、適正な評価と情報共有をしておくことで、回避できる可能性があります。
4. 相続税評価を適正に行うためのポイント
相続税評価に失敗すると、税金を多く払ってしまったり、親族間のトラブルが起きたりと、大きな問題につながります。そこで大切なのが、「正しい評価方法を選ぶこと」「きちんと根拠を残すこと」「専門家の力を借りること」です。
対策項目 | 解説 |
適正な評価方法の選定 | 不動産は路線価・倍率方式、非上場株式は類似業種比準や純資産方式を正しく使い分ける |
評価の根拠資料の保存 | 評価明細書・計算根拠・市場価格情報・賃貸状況などをまとめておく |
専門家との連携 | 税理士・不動産鑑定士・弁護士と連携し、第三者としての客観的評価を得る |
総則6項のリスクを意識する | 税務当局によって評価方法が変更されるリスクを想定し、証拠資料を整備する |
早期の資産整理・情報共有 | 家族間で資産の内容や意向を共有し、分割協議の混乱を未然に防ぐ |
【具体例】
- 非上場株式で業績が一時的に良かった会社について、純資産方式と比準方式で評価が大きく異なり、最終的に総則6項の判断に委ねられた事例
- 市街化調整区域の土地について、路線価だけでなく建築規制を考慮することで評価が大幅に下がったケース
5. 不動産小口化商品の活用
不動産を少額で分けて持てる「不動産小口化商品」は、相続対策として近年注目されています。その理由は、現物不動産を相続する際に生じやすいトラブルや負担を軽減しながら、相続税の圧縮や収益性の確保といったメリットを得られるからです。
なぜ注目されているのか?
- 不動産は分けづらい資産
- 現物の土地や建物は「3人で1つの不動産を均等に分ける」ことが難しく、トラブルになりがちです。
- 小口化商品なら100万円単位で所有できるため、相続人それぞれに公平に分けやすくなります。
- 相続税評価額を下げられる可能性がある
- 小口化商品の場合、流動性や持分制などを理由に、評価額が実勢価格よりも低くなる傾向があります。
- 結果として、相続税額を抑える効果が期待できます。
- 納税資金の確保に有効
- 小口化商品は定期的な賃料収入がある場合が多く、納税資金の準備に使える点でも重宝されています。
- また、換金性の高い商品も多く、必要に応じて売却して現金化することも可能です。
- 管理の手間が不要
- 通常の不動産と異なり、運用・管理はプロ(運営会社)に任せるため、相続人に手間がかかりません。
このように、「分けられる」「評価が下がる」「収益がある」「管理が楽」といった特徴から、資産家やその家族にとって非常に魅力的な選択肢となっています。
以下、具体的な仕組みと注意点を見ていきましょう。
不動産を少額で分けて持てる「不動産小口化商品」は、相続対策として近年注目されています。
どんな仕組み?
- ビルや賃貸マンションなどを運用会社が小口に分けて販売
- 相続人は1口100万〜など少額単位で出資できる
- 所有権ではなく「持分」や「信託受益権」などの形をとることが多い
メリット
- 分けやすい:相続人で分けるときに、実物不動産よりもスムーズ
- 相続税評価が下がりやすい:実勢価格より低めに評価されることが多い
- 管理不要:運用会社が管理・修繕を行ってくれる
- 収益性もある:家賃収入や売却益の一部が分配される
注意点
- 元本保証はない(投資商品であり価格変動がある)
- 一定期間売却できないなどの制限がある場合もある
- すべての商品が相続税対策に適しているとは限らない
【ケーススタディ】
- 都内マンション1億円を小口化して、子3人に各持分33%ずつ分配
- 固定資産評価額ベースで評価され、実勢よりも相続税が抑えられた
- 各子どもは自分のライフプランに合わせて換金や保有を選択できた
不動産小口化は、特に「不動産を分けにくい」「納税資金が不安」といった家庭において、柔軟な解決策となります。
6. まとめ(わかりやすく解説)
ここまで、相続税の評価額がどうやって決まるのか、そしてその評価方法がうまくいかないとどんな問題が起こるのかを見てきました。
相続税は、残された家族にとってとても大きな負担になることがあります。特に不動産や株など、価値の判断が難しい財産では「評価の仕方」が違うだけで、払う税金が大きく変わってしまうことがあるのです。
このような問題を避けるためには:
- 財産の内容を早めに整理し、どう評価されるのか知っておくこと
- 評価方法がよくわからないときは、税理士や不動産の専門家に相談すること
- 家族とも情報を共有しておき、後でモメないように準備しておくこと
また、今回紹介したような「総則6項」のような特例が使われるケースでは、税務署と意見が合わないこともあります。そうならないように、自分の立場をしっかり主張できるよう、資料をそろえたり、アドバイスを受けたりすることが大切です。
少しでも不安があるなら、相続が始まる前から「備える」ことが、後々の安心につながります。
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